Q. マンションの区分所有者が管理費・修繕積立金(以下「管理費等」といいます)を滞納しています。また,その区分所有者は,所有している専有部分を賃借人に貸しています。このようなとき,管理組合は,訴訟をせずに,区分所有者が賃借人に毎月請求している賃料から,滞納管理費等の回収をすることができると聞いたことがあります。そういうことが認められるのでしょうか。
A.区分所有法7条に規定されている「先取特権」に基づく賃料の差押えという手続によれば認められます。管理費等は,回収のために区分所有法によって特別に保護されているので,訴訟を経ないでも,賃料債権を差し押さえる手続をとることができるのです。

解説

  1. 区分所有法7条は,次のように規定しています。

    第7条第1項
    区分所有者は,共用部分,建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について,債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても,同様とする。

  2. 区分所有法7条に基づいて先取特権が認められる債権は,上記の区分所有法7条1項に規定されています。つまり,①共用部分等について他の債権者に対して有する債権,②規約もしくは集会(管理の現場で管理組合の「総会」と呼ばれているものは区分所有法では「集会」と規定されています)の決議に基づいて他の区分所有者に対して有する債権,③管理者または管理組合法人が職務または業務を行うについて区分所有者に対して有する債権です。

    ①には,他の区分所有者が立て替えた管理費用,公租公課や地代(敷地利用権が借地権である場合)等が含まれます。また,区分所有者が共用部分を破壊するなどして発生した不法行為に基づく損害賠償請求権も含まれます(稲本洋之助=鎌野邦樹『コンメンタールマンション区分所有法』(日本評論社,第3版,2015年))。

    ②は,規約や集会の決議に基づいて発生する管理費等債権が典型です。

    ③には,管理者や管理組合法人が職務を行う際に必要な費用の請求などが含まれます。

    また,①から③の債権に付加される遅延損害金も含まれます。これらの債権について認められる「先取特権」とはなんでしょうか。法律の定める一定の債権者は,特に債務者との合意をしなくても,債務者の一定の財産から他の債権者に優先して自己の債権を回収する権利を与えられている場合があり,この権利を先取特権といいます。

    区分所有法7条は,上記の①から③の債権について,区分所有者の他の債権者(例えば,カードローンの会社など)に優先して管理費等を回収する権利を管理組合などに認めているのです。区分所有法7条の先取特権に基づいて管理費等を回収する際に,対象となる区分所有者の財産は,滞納している区分所有者が所有している専有部分(共用部分に対する持分権・敷地利用権を含みます)と建物(専有部分及び共用部分)に備え付けた動産です。また,民法304条は,先取特権に物上代位という権利を認めており,これによって,滞納している区分所有者が専有部分を第三者に賃貸している場合には,専有部分の代償物(専有部分の価値が変化した物)として,その賃料からも先取特権に基づいて回収できることになります。

  3. 滞納管理費等を,区分所有法7条に基づいて賃料債権を差し押さえるためには,裁判所に申し立てる必要があります。申立てにおいては,「先取特権の存在を称する文書」(民事執行法181条4項)を提出する必要があり,具体的には,管理費等について定めた管理規約と,管理費等について決議した総会議案及び議事録の原本か写しが必要です(原則としては写しでよいですが,原本の存在や内容に疑義があるような場合には,原本の提出を求められることがあります)(民事執行センター「サンマエクスプレス第59回 滞納管理費等の回収を図るために区分所有建物の競売を申し立てる場合等における留意点」金法1906号58-59頁参照)。

    ときどき目にするのは,管理費等の額を規約や集会の決議で定めていないというケースです。こういったケースでは,おそらく,分譲時の重要事項説明書において,買主に対して管理費等の額が説明されていたのみで,その後管理組合では具体的な金額を決めていないということなのだと思いますが,管理費等の額を規約や集会の決議で決めていない場合には,区分所有法7条の先取特権の手続を行うことはできません。そのため,この手続を使うのであれば,申立てに先立って,規約や集会の決議で,具体的な金額を確認する決議をとる必要があります。

    また,申立ての際に提出する申立書には,「建物に備え付けた動産に対する担保権の実行では請求債権額に足りないこと」を記載しなければなりません(具体的な記載方法として,「当該不動産は,第三者に賃貸されており債務者兼所有者の所有する動産が存在せず,動産執行の不奏功は明らかである。」などと記載します)。これは,区分所有法7条の先取特権については,民法335条1項が適用されるところ,同条は,「まず,不動産以外の財産から弁済を受け,なお不足があるのでなければ,不動産から弁済を受けることができない」と規定しているので,不動産以外の先取特権の対象である「建物に備え付けた動産」からは回収できないことを記載する必要があるのです。また,このことを申立書に記載するだけではなく,陳述書や報告書をもって,証明する必要があります。賃料差押えの場合には,「第三者に賃貸されていること」,「債務者兼所有者の専有部分及び共用部分には,債務者兼所有者の動産はない」ことなどを記載した陳述書や報告書を作成し,裁判所に提出する必要があります。

    さらに,申立書には,賃借人の名前を書かなくてはなりません(そうしないと差押命令を送達することも,賃貸借契約を特定することもできない)。したがって,管理組合としては,専有部分が賃貸物件となっている場合には,誰に貸しているのかきちんと届け出ておいてもらう必要があります。

    その他,具体的な申立書の作成方法,必要書類などについては,弁護士にご相談ください。

  4. 区分所有法7条に基づいて賃料債権を差し押さえる手続を行う場合にも,規約において違約金として弁護士費用を請求できる旨の規定があれば,併せて請求することができます(具体的には,請求債権目録に記載することになります)。

(弁護士 佐藤元)