2024年6月にマンション標準管理規約が改正されました。当事務所代表の佐藤は、国土交通省「標準管理規約の見直し及び管理計画認定制度のあり方に関するワーキンググループ」の委員を務め、この改正の検討をしました。
改正のポイントは、次のとおりです。
1 非居住化・所在等不明への対応
総会の招集通知の送付など、管理組合を適切に機能させるためには、区分所有者の所在等を正しく把握しておく必要があります。そこで、相続を含め区分所有者が交代した場合や住所の変更について組合員は届出なければならないとする旨の改正をしました(改正標準管理規約31条2項、同条コメント、同コメント内の届出書の記載例)。また、区分所有者が専有部分を第三者に貸与する場合には、当該第三者の連絡先を管理組合に届け出なければならない旨の規定も新設しました(改正標準管理規約19条3項)。これらの届出義務により所有者・居住者の把握が確実になります。そして、理事長は、組合員名簿のみでなく「居住者名簿」も作成、保管及び更新しなければならない、としました(改正標準管理規約64条の2)。
また、所在等不明区分所有者の探索費用を、当該区分所有者に対して、違約金としての弁護士費用も加算して請求できることを規定しました(改正標準管理規約67条の2)。
2 管理情報の見える化推進
建物の高経年化に適切に対応するには、区分所有者が修繕積立金の積み立て状況などマンションの管理の状況を適切に把握する必要があります。そこで、区分所有者が修繕積立金の額を変更する必要性を認識することが極めて重要であるとのコメントを示し、毎年の総会において、長期修繕計画上の積立予定額と現時点における積立額の差を明示するための情報を提示したり、長期修繕計画を総会資料に添付したりすることなどが修繕積立金増額の合意形成において有効である旨示しています(改正標準管理規約48条関係コメント)。また、マンション購入者に対し修繕積立金の変更予定の情報提供がされるよう、管理情報提供様式の記載例に修繕積立金の変更予定額を記載することを追加しています(改正標準管理規約別添4)。
また、総会の議事録のみでなく、議案書及び付随する資料についても、理事長が保管する義務を負うとする改正を行い(改正標準管理規約49条の2)、管理に関する情報が管理組合に蓄積されるよう促しています。
3 社会情勢やライフスタイルの変化に応じた対応
EV(電気自動車)の普及に伴い、その充電設備の設置を検討する管理組合が多くなってきており、国の施策としても既存の集合住宅へのEV用充電設備の設置の推進が要請されています。そこで、EV充電設備の使用ルールや費用について使用細則等に定めることが望ましいこと(改正標準管理規約15条関係コメント④)や、EV用充電設備設置工事の決議要件(同47条関係コメント⑥カ))について、コメントを新設しています。EV用充電設備の設置工事に関しては、管理組合において、普通決議か特別決議のいずれで行うか不明確であるとして、念のため特別決議を実施している事例が多く、弊所でも相談が寄せられていました。上記47条関係コメントにおいて、EV用充電設備設置のための一般的な工事方法であれば普通決議で行い得ることを示しています。
また、物流におけるいわゆる「2024年問題」への対応のための国の施策の一つとして、マンションにおける宅配ボックスの設置、置き配の推進が掲げられています。そこで、宅配ボックスの設置工事の決議要件を明らかにするため、共用部分の加工の程度が小さい場合には、普通決議で行い得ることを明確にしました(改正標準管理規約47条関係コメント⑥エ))。置き配に関する使用細則を定める際のポイントについては、ワーキンググループがとりまとめにおいて示しています。
4 その他の所要の改正
以上の他に、滞納管理費が支払われた際に、充当の順序を理事会の決議で決めることができる旨の規定を新設し(改正標準管理規約60条5項)、監事による監査をメールにより送付された資料によって行うことも可能であること(改正標準管理規約41条関係コメント①)や総会議事録等の提供をメール添付でも行い得ることを明確化しています(改正標準管理規約49条5項)。
詳しくは、国土交通省のウェブサイトもご確認ください。