Q.【ケース】 あるマンションでは,管理規約において,ペット飼育が禁止されている。ところが,103号室の専有部分を所有するAは、犬を飼っている。このマンションでペットの飼育を禁止したのは、ペットの鳴き声、臭い、アレルギー体質の人がいることなどであり、小型のペット、大型のペットを問わず、一律に禁止している。Aのペットの飼育をやめさせたいと考えた管理組合の理事長は,弁護士の事務所に訪れた。理事長は,弁護士に対し,「Aさんからペットを強制的に取り上げてほしい」と言った。このようなことができるのでしょうか?

 

A.ペットを強制的に取り上げることができません。話し合いで解決できない場合には、裁判を申立てて、判決を取得し、間接強制という強制執行の方法をとる必要があります。もっとも、実際の事件では、裁判上の和解で解決することも多いです。

解説

    • 問題点は、ペットを強制的に取り上げることができるか?という点です。理事長や弁護士が直接、Aさん宅を訪れて,犬を取り上げることはできません(自力救済禁止の原則・最高裁昭和40年12月7日判決)。裁判手続が必要です。
    • 裁判では,Aを被告として,「建物内で,犬を飼育してはならない」という請求し,その旨の判決を取得することになります。※犬を直ちに取り上げられるわけではないが、裁判所は犬の飼育禁止の請求を認める(東京地裁平成8年7月5日判決・最高裁平成10年3月26日判決等多数の事例あり)。
    • 民事訴訟は,訴訟手続で判決を取得したのち,強制執行手続をしなければ権利を実現できません。問題は,「建物内で,犬を飼育してはならない」という判決を,どのように強制するか、です。
    • 強制執行の方法には,直接強制(お金を請求する判決に基づいて財産を競売する),代替執行(土地の明渡の判決にもとづいて土地上の家を取り壊すことを業者に依頼して(代替で)実現する),間接強制という方法があります。ペット禁止の請求には,「間接強制」という方法を使います。間接強制は,ペットを飼い続ける場合には,1日当たり●●円のお金(間接強制金)を支払え,という裁判官の決定により,間接的に,ペットを飼わないように強制する手続です。
    • もっとも、ペットが盲導犬だったらどうする?など事案に応じて簡単には解決できないことも多いです。また、裁判では和解で解決することも多いのが実情です。
    • 大事なことは「管理規約」にペット禁止を定めておくことです。管理規約で、「ペット禁止」を定めていればペット禁止であると主張できます。ペット禁止の規約を途中から導入することも可能です(東京高裁平成6年8月4日判決・「特別の影響」に当たらないと判断されています)。