近年、マンションを含む区分所有建物は、建物それ自体の高経年化と区分所有者の高齢化という、いわゆる「二つの老い」に直面しています。平成30年度マンション総合調査によれば、高経年マンションほど空室戸数の割合は高くなる上 、高経年マンションほど空室のうち所在不明・連絡先不通 である割合は高くなる傾向にあり、昭和54年以前に完成したマンションでは、空室のうち所在不明・連絡先不通の戸数割合が、20%超に上るものが5.3%、0~20%のものが8.4%となっています。また、総戸数に対する所在不明・連絡先不通の割合が10%を超えるマンションも1.5%存在しています。さらに、区分所有者の高齢化が進めば、判断力が低下する者が増え、あるいは区分所有者が死亡し、相続人が全員相続放棄をするケースや、相続人が相続した専有部分には住まないで非居住化するケースも増えることが想定されます。加えて、社会経済活動の広域化やグローバル化により、外国人が区分所有者になったり、日本人の区分所有者が国外に居住したりするケースもさらに増えることが想定されます。このように、二つの老い、社会経済活動の広域化、グローバル化などを要因として、区分所有建物の所有者不明化や非居住化が今後さらに進展すれば、集会での合意形成に必要な決議を得ることが困難となり、円滑な管理や再生が阻害される恐れがあります。
また、我が国においては、地震や豪雨、竜巻などの災害が多発しており、大規模災害の発生可能性が高まっているといわれており、被災区分所有建物に関して管理や再生の円滑化を図ることも喫緊の課題となっています。
このような状況を踏まえ、令和4年9月12日、法制審議会第196回会議において、法務大臣は、老朽化した区分所有建物の増加等の近年の社会情勢に鑑み、区分所有建物の管理の円滑化及び再生の円滑化を図るとともに、大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物の再生の円滑化を図る等の観点から、区分所有法制の見直しについて諮問しました(諮問第124号)。諮問を受け、法制審議会の「区分所有法制部会」(部会長:佐久間毅同志社大学大学院司法研究科教授)において、同年10月28日より審議が始まりました[1]。9回の会議を経て、令和5年6月8日に「区分所有法制に関する中間試案」[2]がとりまとめられ、パブリックコメントに付されました。その後、8回の会議が行われ、第17回会議において、「区分所有法制の見直しに関する要綱案」が取りまとめられました[3]。そして、令和6年2月15日、法制審議会の総会(第199回会議)において、要綱案どおりの内容で、要綱として法務大臣に答申することとされました。

当初は令和6年度通常国会において、上記の要綱を踏まえた区分所有法改正法案が審議・成立する予定でしたが、政治状況等から法案提出が先送りされ、いまのところ令和7年度の通常国会に法案提出され成立する見通しです。

区分所有法改正の見通し②からは改正の見通しの具体的内容についてみていきたいと思います。

[1] なお、法制審議会に先立って令和3年3月31日より、区分所有法制部会の委員も含まれる区分所有法制研究会(座長:佐久間毅同志社大学大学院司法研究科教授)において、事前の論点整理がなされた。その内容は、一般社団法人金融財政事情研究会のウェブサイトに公開されています。(https://www.kinzai.or.jp/legalization_manshon.html)。同研究会の取りまとめは「区分所有法制に関する研究報告書(令和4年9月)」として公表されています。(https://www.kinzai.or.jp/uploads/houkoku_.pdf)(いずれも令和7年1月4日最終閲覧)

[2] 法務省ウェブサイトhttps://www.moj.go.jp/content/001410596.pdf 。(令和7年1月4日最終閲覧)

[3] 法務省ウェブサイトhttps://www.moj.go.jp/content/001410596.pdf。(令和7年1月4日最終閲覧)

 

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