Q. マンション管理組合の監事に就任しましたが、何をすればよいのかわかりません。監事はどういう役割なのか教えてください。
A. 監事の役割の一つ目は管理組合の会計をチェックです(会計監査)。予算にしたがったお金の使い方がされているか、お金の支出に対応する領収書があるか、預金から不正な支出がされていないかなどのチェックをします。二つ目は業務が規約や法律に従って適切になされているかをチェックです(業務監査)。規約に従って総会や理事会が開催されているか、契約を締結する際に総会や理事会の決議を経ているか、総会の多数決の取り方が法律や規約に合致しているかなどをチェックします。

 

解説

監事の職務は管理組合の業務状況を監査することであり,会計監査と業務監査により行います(標準管理規約 41 条 1 項)。

⑴ 会計監査

会計監査監事は,会計監査の結果を総会に報告しなければなりません(標準管理規約 41条 1 項)。そのため,通常総会に先立って,収支決算報告書類により会計監査を行い(標準管理規約 59 条),監査報告書を作成し,同報告書は通常総会の議案に添付されます。会計監査においては,適正かつ効率的に予算および業務が執行されているか,管理組合の財産の現状はどのようになっているかの 2 点の確認をポイントに,帳票類を含む会計書類全般をチェックすることになります。例えば,収支報告書を確認する際には,繰越金の処理が規約に従ってなされているか,予算で計上された項目ごとに対応して,その執行額が記入されているか等を確認します。
また,監事自らが通帳等の原本を定期的に確認し,預金口座からの不正な引出しがないことや,会計帳簿の原本との整合性を確認する必要することも重要です。

⑵ 業務監査

業務監査においては,不正行為,法令違反等の有無(具体的には以下の事項)を確認し,これが認められるとき(不正の行為についてはそれをするおそれも含む)は,監事は,上述のとおり理事会に当該事実を報告しなければなりません。また,場合によっては,理事会や臨時総会を招集することもできます。
a 法令違反の有無  監事は,管理組合の業務が区分所有法等の法令に違反していないか確認しなければなりません。区分所有法違反の有無の具体例としては,共用部分の管理に関する総会決議事項につき総会の多数決決議を経ているか否か(法 18 条 1 項本文。例:大規模修繕工事の実施),共用部分の変更につき 3/4の特別多数決決議を経ているか否か(法 17 条 1 項。例:機械式駐車場の撤去),規約の変更につき 3/4 の特別多数決決議を経ているか,総会決議の議題はあらかじめ招集通知により通知されているか(法 37 条 1 項),理事長は規約や総会議事録を保管しているか(法 33 条 1 項本文,法 42 条 5 項)等が挙げられます。また,区分所有法以外の法令違反の有無の具体例としては,刑法違反などが挙げられます(例:理事による管理組合の預貯金の横領行為は業務上横領罪にあたる(刑法 253 条違反)。
b 規約,使用細則等違反の有無  規約,使用細則等に違反しているかどうかも確認しなければなりません。例えば,役員の員数は規約で定めたとおりになっているか(標準管理規約 35 条 1 項),役員及び役職の選任の手続は規約に則っているか(同条 2 項,3 項),役員による利益相反取引の場合の手続が履践されているか(同 37 条の 2),総会の招集手続は規約に則っているか(同 43 条),総会に先立って予算案,決算案,議案などを理事会で決議し確定しているか(同 54 条 1項),管理費等の滞納に対する法的措置を行うにあたって理事会決議を経たか(同60 条 4 項)等が挙げられます。
c 総会決議違反・理事会決議違反の有無  総会や理事会で決議された事項に違反して,理事長が職務執行をしていないかどうかも確認しなければなりません。例えば,大規模修繕工事を実施する業者を総会決議において決定したにも関わらず,理事長が独断で他の業者に工事を発注していないか,理事会において管理費等請求訴訟のために委任する弁護士及び弁護士費用を決定したが,理事長が独断でその内容と異なる委任をしていないか,等が挙げられます。また,総会や理事会で決定した内容を理事長が執行しているかどうか,も確認する必要があります。
d 理事による不正の行為・著しく不当な事実の有無  不正の行為とは,直接には法令,規約,使用細則等,決議及び規約違反には当たらないが,社会的に不当な行為を差し,著しく不当な事実とは,それを決定し,行うことが妥当でない場合を指すと解されます。具体的にどのような場合がこれに当たるかは,事案ごとに社会通念に照らして監事が判断することになりますが,理事の利益相反取引につき,理事会の承認決議を経たものの,工事代金が著しく高額で,理事会が利益相反取引を行う理事の利益を図ろうとしていると疑われるような場合はこれに含まれるものと解されます。